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【 第6話 】体育館がない! 田んぼに落ちる!

バレーボールのクラブチームは、V1リーグでもない限り、基本的に選手たちは一般企業に務め、日中は会社員として働きながら、それ以外の時間で練習時間を捻出している。

 

時は少しさかのぼり2020年の冬、森田は選手の就職先の確保に奔走していた。入団を決めた関西時代の教え子たちが、次の3月にはやって来るからだ。

 

文字通り、あちこちを走りまわった。普通の就職となると出張や異動などが発生するため、選手としての事情を説明し、条件を交渉しなければならない。一人分、また一人分と就職先の確保にかけまわり、なんとか選手全員の就職先を確保したのだった。

 

その数か月後に入団してきた選手たちは、日中はその企業で事務などの仕事をして夕方まで働き、その後バレーの練習、という日々を送ることになった。

 

しかし一番の問題は、練習場所である体育館がなかったことだ。

 

毎日の練習場所は、一つひとつ、自分たちで確保するほかない。

 

森田に声をかけられ、コーチとしてやってきた瀧元一彰はその当時、小中学校や公民館など候補先のリストを片手に、朝から晩までひたすら体育館確保のために電話をかけていた。

 

「はぁ、1時間で1,000円かぁ……。高いなあ……」

 

ため息混じりに受話器を起き、瀧元はぼんやりと空中を見つめる。

 

スポンサーもほぼいないのだから、当然、予算はない。1時間に250円以上は払えない。1,000円、2,000円の出費すらいちいち頭を悩ませなくてはならない、チームとしては極貧の状況だった。

 

そんな体育館ジプシー生活は、結局、その後半年ほど続いた。

 

そんなことを当時のメンバーたちは知るよしもなく、Vリーグ入りを果たすことだけを胸に描き、毎日就業後に何時間もかけて移動して練習に励む、過酷な練習生活を送っていた。

 

そう、あまりに疲れすぎて、時に、車ごと田んぼに落ちたりもしながら──。

 

 

 

 

選手たちの多くは福岡市内に住み、福岡市内の就職先で仕事をしていた。

しかし、人口の多い福岡市では、なかなか体育館が確保できなかった。

 

しかも、時はコロナ禍。選手たちの仕事が終わるのは夕方以降だが、そうした夜間の時間はますます予約がとれなくなっていった。なんとかやりくりをして、福岡市から車で1時間ほどの飯塚市まで週3回通い、それ以外の日は福岡市の郊外に予約をねじこむなど、毎日バラバラの場所で練習を行う生活を余儀なくされていた。

 

選手たちは、昼間は福岡市内の各自の就職先で仕事をし、そこからそれぞれ車で片道1時間〜1時間半ほどの道のりを運転し、飯塚やその他郊外の体育館まで向かう。

 

例えば松永歩未は、毎日朝7時半くらいに出社。17時頃に終業してから車で練習場所へ向かう。選手たちは各地からばらばらと集まるので、19時半、20時頃からようやく練習が始められる。22時頃に練習を終えると、また1時間以上の道のりを戻る生活だった。

 

毎日、疲れは抜けない。眠い目をこすりながら運転をする日々が続いた。

 

山奥に立つ小学校の体育館で練習予定だった、ある日のこと。

 

松永はいつものように仕事を終え、疲れた体でハンドルを握っていた。山の方へ向かう田んぼの中の細道は対向車もなく、単調な道だった。

 

“はぁ、眠ぅ……”

 

あくびをしかけたその瞬間、

 

「バコンッ!!」

 

一瞬、何が起きたのかわからなかった。気づいたら、田んぼの中に車ごと、斜めに突っ込んで落ちていた。

 

“うわ、やっちゃった……”

 

一方、体育館ではマネージャーの染川遥香が、松永の到着が遅いのを気にしていた。

 

おかしいなぁ。いつもならもう着いている時間なのに。とりあえず一応、電話してみるか。そう思い染川はスマホのコールボタンを押す。

 

染川:「あ、もしもし? 遅いけどどうした? 仕事長引いてる……?」

 

松永:「……ごめん、なんか田んぼに落ちた」

 

染川:「は?! 田んぼに落ちたって……今どこ?!」

 

他のメンバーは練習中だったので、染川は急遽ひとりで車に乗り現場へ向かった。あたりに照明も少ない、暗く細い田んぼ道を進んでいく。

 

しばらくすると、真っ暗な田んぼのなかで、チッカ、チッカ、とハザードランプが点滅しているのが見えた。

 

「うわあ・・・あれか……!!」

 

選手たちも、本当に限界ぎりぎりのところで120%の毎日を、送っていたのだった。

 

 

(取材・構成:KANOA映画化推進委員会)

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