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【 第13話 】監督と、バレーの話ができるっていいな

部長の加入が決まり、本格的にチームとしての強化が始まった。

 

とはいえそもそも、選手が10人にも満たないチーム。まだまだ選手が足りていなかった。

 

そんなとき、チームに1通のメールが届く。

 

「初めまして。私のプレーを見てもらえませんか?」

 

あるセッターの選手の動画だった。正直、あまりうまくはない。でもどこかにセンスというか、伸びしろを感じさせるような、不思議な雰囲気が感じられた。

 

関西のチームの選手だったが、出身が佐賀県で、九州に戻りたいという。しかし森田は迷った。KANOAの選手にするには実績がないし、また最年少ということで、うまくチームと馴染むかわからない。

 

悩んだ結果、森田は彼女に「練習生として参加してみませんか?」とメッセージを送る。

 

その2週間後。彼女は練習に参加した。

 

予想通り、うまくなかった。けれど、あきらめない性格、根性は本物だった。どんなに練習についてこれなくても、決してあきらめない。そんな姿勢に他の選手たちも、一緒にプレーしたいと思うようになっていった。

 

それが#4セッター、山田真実である。

 

山田は、森田の「KANOAでプレーしてみるか?」との誘いに対し、即答で「お願いします」と返した。すでに練習に参加し、チームの雰囲気を好きになっていたこと、また監督である森田とフランクに話せる関係性があることも決め手だった。

 

こんなユルい監督がいるんだ。でもすごく熱心だ。後に山田は、当時の印象をそんなふうに語っている。

 

それからの山田は持ち前の素直さと根性でみるみる成長し、いまやKANOA福岡に欠かせないメンバーのひとりとなっている。

 

 

 

2022年の1月には、熊本比奈と同じくV1V2リーグで活躍してきた経歴を持つリベロの溝口由利香が、KANOA福岡に入団した。

 

溝口は、自分の地元である福岡にカノアというバレーチームがあることを知っていた。チームがSNSで発信していたバレーの指導動画を目にして、おもしろいなと興味を持ち、以前から気になる存在ではあったという。

 

V1リーグで3年活躍した後、新しい自分の成長を目指してV2の別チームに移籍した溝口。

 

だが当時は、自分がどのようなバレーをしたいのか方向性を見失い、前のようにバレーを心から楽しめなくなっていた。悩み続けて夜も眠れない日々が続き、心と体のバランスを大きく崩してしまう。

 

もう、バレーをするのは辞めよう

 

退団を決意した溝口は、地元である福岡へ戻る。

 

福岡でバレーから離れた日々を送る溝口だったが、気づけばバレーのことばかり考えていた。もう引退したんだと、自分で自分に言い聞かせるたび、涙があふれた。

 

環境を変えよう。違う環境でもう一度、バレーに関わってみよう。

 

そう考えたとき、前から気になっていたKANOA福岡が頭に浮かんだ。SNSを開くと、いつもKANOA福岡が出てくる。Vリーグにも参入していないクラブチームだったが、皆楽しそうにバレーをしているのが印象的だった。さらにはVリーグ参入を目指そうとしている。その存在には、何か惹かれるものがあった。

 

溝口は、KANOAのチーム公式インスタグラムでダイレクトメッセージを送ってみた。

 

そのとき、森田はマネージャーの染川と昼食をとっていた。ブブッ、とスマホが振動し、画面に通知が現れる。

 

染川:「あ、森田さん、V1チームで活躍してた溝口由利香選手からDM来てますよ?」

 

森田:「あのリベロの?」

 

染川:「そうです。いま福岡に帰ってきているみたいです」

 

森田:「引退せんかった?」

 

染川:「してるみたいです」

 

染川:「なんか、KANOAで練習したいみたいです。でも体調を崩してるらしくて、選手になる気はないみたいですが……

 

森田:「そうか。かまへん、かまへん。そんな選手来てくれたらウチも練習の質が上がる」

 

染川:「わかりました、いつ会えるか聞いてみます」

 

森田:「いますぐメッセージ打ってくれ。早いほうがいい」

 

染川:「もう打ちましたが、もう返事が来ました」

 

森田:「マジで?! めっちゃ早いな。いつから来れるんや?」

 

染川:「今日です」

 

森田:「レスポンス早すぎるな! よし、今日来てもらお。」

 

流れるように話が進み、その日の夕方、森田は溝口と初めて会った。

 

想像していた以上に、バレーの話で盛り上がった。森田も溝口も、落ち着いてじっくりバレートークをする機会がなく、溜め込んでいた思いがあったのかもしれない。オリンピックやV1で活躍している選手を分析した溝口の意見に対し、森田の独自の見解や互いの体験談などを語り合ううち、2時間は飛ぶように過ぎた。

 

「監督とこうやって、バレーの議論がちゃんとできるのはいいな」

 

溝口は思った。

 

よくも悪くも「監督らしくない」森田は、溝口の目に新鮮に映った。自分を大きく見せようとせず、弱みも全部さらけだす。それが正しいのかわからない。ただそこには、選手たちに誠実であろうとする森田の姿勢が表れているように感じられた。

 

このチームでなら、監督とも、メンバーとも遠慮なく意見を交わしながら、自分も成長していけるかもしれない。溝口にはそんな直感があった。

 

また、同じくVリーグ経験者の熊本比奈が在籍していることも、入団を決めた理由のひとつであった。熊本と同い年である溝口。早くからバレー界で活躍していた熊本は、同じ福岡出身の溝口にとって、小学校のときから名を知る存在だった。あの熊本比奈と一緒にバレーをしてみたい。その気持ちが背中を押した。

 

溝口の入団の意向が決まり、森田は聞く。

 

森田:「じゃあ、いつから練習にしようか?」

 

溝口:「あ、もういつからでも。明日からでも、行けます」

 

言えるようで、なかなか即座には言えないフレーズだ。気持ちのいいほど、躊躇がなかった。

 

またひとり頼もしい仲間を得たことを、森田は心強く思った。

 

そして森田は溝口と話し、現役時代の心の葛藤や体調を崩した経緯にも耳を傾けながら、あることを確信していた。

 

この子は、バレーを引退したけれど、その心は成仏できていない。必ず、KANOAのバレーで、息を吹き返す

 

 

 

(取材・構成:KANOA映画化推進委員会)

 

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