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【 第4話 】「福岡で、バレーやらへんか?」(2) (#3栗下詩子&#5三浦優&#12湊ひかり)

森田は、さらに選手の獲得に励んでいた。

 

そんな折、運良く神戸の大学のバレー部監督から声がかかる。

 

「うちの選手、よかったら森田くん預かってくれ」

 

それがミドルブロッカーの栗下詩子だった。

 

栗下はそれまでに2、3回、森田の指導を受けた経験があった。松永と同じく、森田式「考えるバレー」の楽しさを知る貴重な存在でもあった。

 

“これは願ってもないチャンスや。いろいろな誤解で周りから嫌われているチームなのに、声をかけてもらえるなんて……“

 

森田は心から感謝し、即答で獲得を決めた。

 

栗下自身も、顔見知りのメンバーがすでに森田のチームへの入団を決めていたことで、「このメンバーなら、もしかすると最高のチームができるかもしれない」と予感があったらしい。

 

さらに栗下は宮崎県出身。九州でバレーができることは、プラスの要因として働いた。

 

森田にとって、自分と同じポジションの松永や栗下の参入はとても嬉しく心強いものだった。この子たちなら、自分のすべてを教えられる。必ず成長させてみせると誓った。

 

 

 

 

森田に声をかけられて入団を決意したメンバーに、アウトサイドヒッター(現セッター)の三浦優もいた。

 

三浦は大学在学中、森田がコーチを務めていた大学と一緒に合宿をしたことがある。

 

そのとき、三浦は森田の指導するバレーをじっ、と集中して眺めていた。

 

「ブロック、教えよか?」

 

声をかけると三浦は頷き、森田はブロックのコツを教えた。すると三浦は、教わったばかりのプレーを一発で成功させたのだ。

 

“この子、運動神経がずば抜けているな。並の身体能力やないで、これは。末恐ろしい子になるかもしれん……”。当時から森田は、三浦に対してそんな予感があった。

 

事実、後に森田はセッターポジションの選手を見つけられず、思い切ってセッター初心者の三浦をセッターに起用することになる。

 

三浦は持ち前の身体能力でセッターとしても活躍を見せ始め、幾度となくチームの窮地を救う存在となっていく──。

 

それはまた少し先の話だが、器用な三浦が入団を決めてくれたことに、森田は高揚感を覚えていた。

 

 

 

 

さらに森田には、どうしても獲得したい選手がいた。

 

#12オポジット、湊ひかり。

 

湊は、森田が監督を務めていた大阪の大学で松永の同期であり、大学選抜の一員であった。

 

そして、大学時代に大化けした選手でもある。

 

もともとミドルブロッカーだったが、湊の力強いスパイクを見て、森田は湊のポジションをオポジットに変更。その戦略が奏功し、湊は関西大学選抜の中でもエースとして活躍を見せていた。

 

“この子の卒業後、さらに成長させてみたい”

 

森田が指導者として、初めてそう感じた選手だった。そんな思い入れから、もし入団してくれるならその暁には、湊には森田の現役時代の「#12」をつけると心に決めていた。

 

だがそれほど思い入れのある一方、森田は、湊の勧誘を最後まで迷っていた。

 

というのも、大学時代の湊は「エース」兼「キャプテン」であり、Vのチームからも声がかかるほどの逸材だったからだ。“声をかけたいけれど、こいつは俺のとこには来てくれんやろな……”。そう感じて、なかなか声をかけられずにいた。

 

しかしそのころ、湊は湊で、進路について迷っていた。

 

Vリーグ参入チームの中の、どこに進もうか。そう考えていたとき、同期の松永が早々に「福岡でバレーをやる」と決め、予想外のルートに興味をひかれたのだ。

 

その理由には、湊もまた、森田式の「考えるバレー」をおもしろいと思うひとりだったことがある。あのバレーを、松永ともう一度やりたい。その純粋な欲求があった。さらには当の松永が無理に誘うこともなく、「ひかりが、やりたいようにやればいいよ」と言ったことが、逆に湊の背中を押した。

 

思い切って森田が湊に声をかけたとき、湊があっさりとOKを出したのには、そんな背景があったのだ。

 

“ああ、湊が来てくれるんや”

 

森田は驚きとともに、その喜びを噛み締めた。

 

 

(取材・構成:KANOA映画化推進委員会)

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